2025年5月24日

【解説】年金制度改革法案

際限なく進む厚生年金の目的外使用


政府が国会に提出した年金制度改革法案について、自民党は23日、立憲民主党の要求に応じ、厚生年金の積立金を利用して「基礎年金」の給付を底上げする措置を盛り込むことを決めました。

今回の年金制度改革法案とはどういうものですか

当初政府案の主な内容は3つ。一つ目は、厚生年金の積立金を利用して、「基礎年金」の給付水準を3割底上げ。二つ目は、賞与除く年収798万円以上を対象とする高所得者の厚生年金保険料を段階的に引き上げ。三つ目は、パート労働者の厚生年金加入拡大のため、年収106万円以上とする厚生年金の加入要件の撤廃です。

このうち一つ目の「基礎年金」底上げ策は、財源流用との批判が広がったため、自民党の審査段階で削除され、法案は5月16日に閣議決定されました。

法案提出後、立民など野党が、所謂いわゆる「氷河期世代」の低年金問題が解消されないとして、法案を「餡あん子このない餡パン」と批判し、「基礎年金」底上げ策を改めて盛り込むよう求めました。これを受けて自民が打ち出した23日の方針は、政府与党が削除した内容を事実上復活させるものです。

なぜ「基礎年金」を底上げするのですか

「基礎年金」の財務状況が厳しいためです。少子高齢化により、年金の給付を受ける者が増える一方、保険料を納める者は今後減っていくことが見込まれます。この状況に対応するため、厚生労働省は現在、年金財政が均衡するまで給付水準を毎年切り下げる「マクロ経済スライド」という措置を行っていますが、それをもってしても、経済状況が好転しない限り、少なくとも2057年度まで続ける必要があり、「基礎年金」の水準が現在より3割下がるといわれています。

「基礎年金」を下げ止めるために浮上したのが、厚生年金積立金65兆円と国庫負担70兆円を「基礎年金」に投入する案です。これにより、「基礎年金」の抑制措置は2036年度までに前倒しでき、現行の見通しより3割底上げできると見られています。

基礎年金底上げのイメージ
『日本経済新聞』より
日本の公的年金は二階建てですよね。内訳が変わるだけで、損をするわけではないのではありませんか

厚労省は、給付が減るのは1080万円を超える高所得者などに限られると説明していますが、それだけではありません。まず、底上げ策では厚生年金の減額が先行します。厚労省の試算によると、平均的な賃金で40年働いた単身会社員の場合、2045年度までは月額で最大約7,000円年金額が減るとされています。もちろん、それまでに亡くなってしまうと払い損です。減額分を全て取り返そうとするなら、プラスに転じた後も更に長生きせねばなりません。

2045年度までは年金額が減る
『日本経済新聞』より
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基礎年金というフィクション
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また、公的年金が「二階建て」というのも正しくありません。ここまで「基礎年金」と鉤括弧つきで書いてきたのは、「基礎年金」が実体を伴わない架空の勘定だからです。

「二階建て」だからといって、厚生年金に入っている方が、「基礎年金」分の保険料として、月17,510円(2025年度)を国民年金被保険者と等しく負担しているわけではありません。「基礎年金」への醵きょ出しゅつ額は、実際に支払った被保険者の頭数で算定されるため、国民年金側の未納や免除の分だけ、厚生年金側が肩代わりさせられる構造となっているためです。厚生年金の加入者は国民年金のそれより、年間でおよそ1箇月分近く余分に支払わされていたという分析もあります。

1985年に「基礎年金」という架空の勘定が設けられたのは、実際に制度を統合するのは財源調整などの困難を伴うからです。それでも、当時の厚生年金には定額部分と報酬比例部分とが分かれていたため、定額部分を「基礎年金」に擬態するのは理解が得られやすかったのでしょう。

とはいえ、「基礎年金」部分の負担と給付が見合っていない以上、各年金は別個の制度である事実に変わりはありません。言うまでもなく、厚生年金の積立金は、「基礎年金」への醵出と年金給付とに充てられなかった余剰金であり、純然たる厚生年金の報酬比例部分です。今回の法案は、「基礎年金」の名の下に厚生年金の定額部分を流用しているのに加えて、新たに報酬比例部分にも手をつけようとするものです。

「氷河期世代」の低年金問題を解決するためにも、「基礎年金」の底上げは必要ではないでしょうか

「基礎年金」の底上げでは「氷河期世代」は救済できません。国民年金は40年間保険料を納めれば満額を受給できますが、2025年度の時点でも月額69,308円に留まります。これは生活保護の生活扶助基準額よりも低い水準です。更に、保険料の未納や免除などの期間があれば、受給額はより少なくなります。いくら「基礎年金」を底上げしても、保険料を支払っていなければ焼け石に水です。

抜本的な改善案として、最低保障年金が超党派で提案されたことがあります。これは、一階部分の「基礎年金」部分を全て租税で賄おうというものです。

利点は、現行の「基礎年金」と異なり、保険料納付の有無にかかわらず、同額の給付を受け取れることです。また、生活保護と統合することで、国民年金と生活保護との給付額が逆転するという不合理も解消できるとされています。

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