国会から匪賊を追い出だせ
昨年10月の衆議院議員選挙で与党が過半数割れしたとき、キャスティング・ボートを握っているのは国民民主党だと嘱目されていた。だが、実際に握っていたのは少数政党ではなく、あろうことか野党第一党の立憲民主党であった。
自民党、公明党及び立憲民主党が共同へ提出した年金制度改革法案について、衆院の厚生労働委員会及び本会議で採決が30日行われ、賛成多数で参議院に送られた。参議院でも自民、公明、立民が過半数を占めているため、法案は今国会で成立する見通し。国民の財産に関わる重要な案件を、わずか一日で決めるという暴挙である。
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| 【解説】年金制度改革法案 |
厚生年金はもともと定額部分と報酬比例部分とに分かれており、1985年の制度改正で定額部分は「基礎年金」に擬態され、国民年金への流用がこれまでにも行われていた。だが、今回の法案はそれに加え、報酬比例部分にまで手をつけて横流ししようとするものである。
国民年金は財源不足が深刻化しており、「マクロ経済スライド」と称する給付抑制措置をとっているが、それでも経済状況が好転しない限り最短でも2057年度まで措置を続ける必要がある。そこで、厚生年金積立金65兆円と国庫負担70兆円とを「基礎年金」部分に投入し、底上げを図るのが今回の法案の要旨である。

立憲民主党などは九割九分の者の年金支給額が上がると吹聴しているが、厚生年金の減額分を将来の「基礎年金」に回すため、厚生年金加入者は当面の年金支給額が減る見通しである。厚生労働省の試算によれば、平均的な賃金の単身会社員の場合、2045年度まで最大月7,000円程の減額となるという。

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| 基礎年金というフィクション |
言うまでもなく、厚生年金積立金とは、現下の年金支給及び「基礎年金」への醵出の後に残った余剰金であり、紛れもなく純然たる報酬比例部分である。国民年金の未納及び免除により、厚生年金加入者は「基礎年金」部分の単価上昇で既に過重な負担を強いられているというのに、積立金も流用されるとなれば、より一層負担は不公平なものとなる。歴とした財産権の侵害であり、厚生年金加入者も得をする、などということはあり得ない。
追加の国庫負担も無視できない。財源調達の方法は具体化されておらず、将来の増税で賄われると考えるのが自然である。国庫負担は最大年2.6兆円、消費税では約1パーセンテージ・ポイントに相当すると見られている11. 「基礎年金の底上げ、恩恵を受けるのは誰?」、『日本経済新聞』、2024年12月25日。。実質的に将来世代から老人世代への所得移転となり、誰もが等しく恩恵を受けると評するのはいよいよ困難となる。
上記の内容が当初政府案として示されたときは、自民党内でも異論が噴出し、参院選への影響から一旦は削除された。だが、法案提出後に立民が所謂「就職氷河期世代」の低年金問題が解消されないとして、法案を「餡子のない餡パン」と批判し、「基礎年金」底上げ策を盛り込むよう要求したことで、削除された内容が復活するどんでん返しの展開となった。年金の財源調整にもがく政府与党にとってはまさに渡りに船であり、参院選に向けて支持層への宣伝材料を欲していた立民と利害が一致した。
それからは国民不在の密室政治である。自公にとっては、年金の財源調達に一段落がつき、法案への批判は全て立民が背負ってくれて、おまけに内閣不信任案を封じ込めることもできる。立民は自ら自公の走狗となったのである。ハング・パーラメント(宙吊り議会)によって本来の議会政治を取り戻せるという国民の期待は、見事に裏切られた。この政治的談合は、権力維持のためなら手段を選ばない政治家の汚点として、後世の記憶に深く刻まれることになろう。与野党が癒着する「オール与党」の完成であり、55年体制で常態化したボス交渉の再来である。
筆者が幼少期を過ごした大阪市が、まさに「オール与党」の典型であった。労組と同和団体が癒着し、自民、公明、民主各党もこぞって労組推薦の市長を推すのが定例となっていた。そのため自浄作用が失われ、1990年代まで「カラ残業」「ヤミ専従」などの不法行為が常態化していたのである。市内には意味不明な箱物が雨後の筍のように建てられ、教育委員会が同和団体に購入させられた副読本が公立学校の道徳の授業で使われるような有様だった。そうした市民の苦い経験が、今日の大阪維新の会への絶大な支持の原動力となっている。
年金制度で弥縫策ばかりが続くのは、政治が増税議論を躱したいからに外ならない。とりわけ、消費税導入で下野を余儀なくされた経験のある自民党にとっては鬼門といえる。その意味で、国民の方も全くの無罪とは言い切れないのである。国民が痛税感を嫌うあまり、議論から逃げ回っていると、政治家は少数の独断で物事を決めてしまうということが、今回の事例で明らかになったであろう。国会から匪賊を追い出したければ、まずは国民が公平な負担を受容する覚悟を固めなければならないのである。
1. 「基礎年金の底上げ、恩恵を受けるのは誰?」、『日本経済新聞』、2024年12月25日。
