ジレンマに陥る中央銀行
日銀の金融政策は限界に近づいているのではないか──そう思わせるニュースが飛び込んできた。
- 消費税2030年15%に IMF専務理事、賃上げの弱さ懸念(『日本経済新聞』)
この記事は日本経済新聞社のオピニオンページ『日経COMEMO』への投稿からの転載です。 |
国際通貨基金(IMF)の専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバが、『日本経済新聞』などとのインタビューで、日銀の物価目標を現在の2パーセントから、幅を持たせたものに変更するよう提言した。
日銀は現在毎年2パーセントずつの物価上昇を目標に掲げている。年2パーセントの上昇率というのは人類の経験則から導き出された値で、これによって企業の業績と個人の賃金が上がり、持続的な経済成長が見込めるという算段である。その目標に向けて、日銀はマイナス金利の導入や国債買い取りなどの金融緩和策を進めている。
ゲオルギエバの提言について、『ファイナンシャル・タイムズ』が興味深い指摘をしている。
- Japan urged to review inflation target and shift cap on bond yields (Financial Times)
それは、物価上昇の低迷が続く日本で、物価上昇の目標に幅を持たせれば、事実上の下方修正と受け止められかねず、目標の下限のみが意識されるだろう、というものである。
日銀はゲオルギエバの提言通りには動かないだろう。というのも、2パーセントの物価目標は世界共通の認識だからだ。米国の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が揃って2パーセントの物価目標を掲げる中、日銀だけが方針を転換すれば、円高圧力がかかりかねない。「リーマン・ショック」直後の失策の二の舞となり、それは日銀の敗北宣言を意味する。日銀総裁の黒田東彦が会見の度に「躊躇なく追加緩和を行う」と言っているのはそのためである。
たが、ここにきてIMFが見直しを提案するということは、それほど状況が切迫しているということなのだろう。実際、マイナス金利の効果は限定的だという認識が既に広まっている。金融政策は瀬戸際に立たされており、次の策を打ち出すべき時に来ているのかもしれない。
- 恩恵は海外勢のみ?マイナス深掘り、利回り差拡大でも 邦銀に預金の「ゼロ制約」(『日本経済新聞』)
この記事は『日経COMEMO』へ2019年11月26日に投稿されたものです。