ロシアの侵攻開始によって、ウクライナ情勢は新たな局面を迎えた。だが、欧米各国は非難及び制裁措置に踏み切ってはいるものの、いま一つ気魄に欠ける感は否めない。

今回のように、大国の覇権争いの舞台となった例は過去にもある。その代表例がアフガニスタンである。かつては、19世紀にロシア帝国とイギリスとの間で、チェスの盤面になぞらえて「グレート・ゲーム」と呼ばれる抗争を繰り広げた。また冷戦期には、アフガニスタン共産政権支援を目的としたソ連の侵攻に対して、アメリカは反政府ゲリラへの資金援助で対抗した。前者は緩衝国の設置、後者はソ連軍の撤収により決着をみた。

今回のウクライナ情勢は、2つの点でアフガニスタンとは事情が異なる。

一つ目は、地形が異なること。ウクライナはその大部分が、ステップや平原などの平坦な地で占められている。したがって、ロシアから見れば、険しい山岳地帯から成り立っているアフガニスタンに比べて、ウクライナは攻めやすい土地であるといえる。加えて、山岳地帯にありがちなゲリラなどの厄介な存在もない。

二つ目は、ウクライナが内陸に位置する国家であること。アフガニスタンの南にはパキスタンを挟んでアラビア海があるが、ウクライナは黒海のさらに北側に位置している。外海に近いアフガニスタンと違い、たといウクライナ全土を掌握したとしても、ロシアの軍艦はボスポラス、ダーダネルス両海峡を通過しなければ地中海には出られない。そのため、西側にしてみれば、リスクを冒してまでウクライナを守る動機にはなりにくい。このことが、NATO(北大西洋条約機構)が派兵をためらう一因になっているのではないか。

以上から、今回は明らかに西側に分が悪いとしか言いようがなく、今後の状況次第では、ウクライナ東部のみにとどまらず、首都キーウ(ロシア語名キエフ)の陥落、さらにはウクライナ全土がロシアに掌握されることも十分に考えられる。西側はリスクとの兼ね合いから消極的対応に徹し、最悪の場合ウクライナを「見殺し」にするだろう。

もしそうなれば、ハンガリーの東部に位置するカルパティア山脈が西側の実質的な防衛線となる。そして、ボスポラス、ダーダネルス両海峡を擁し、現時点で対露制裁に反対しているトルコの動向が今後の懸念材料となることが予想される。

武力による国境変更はおよそ冷戦以来で、そのような前例を許せば、例えば台湾など、国民のアイデンティティーが分断されている他の地域にも波及しかねない。今の西側諸国には危機感が欠如している。手遅れになる前に、早急に手を打つ必要がある。