2026年2月11日

重商主義の誤謬に陥るトランプ

国民の購買力と生活水準こそ経済力の基盤

アメリカ大統領のドナルド・トランプは2025年4月2日、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表した。

トランプ政権の関税政策は、現代経済における自由貿易体制に対する大きな挑戦として位置づけられる。その思想的背景としてしばしば指摘されるのが、重商主義との親和性である。とりわけ、貿易赤字を国家的損失とみなし、関税によって輸入を抑制し輸出を促進することで国力を回復しようとする発想は、重商主義的な貿易観と強く重なっている。しかし問題は、そうした発想が、歴史的に批判されてきた重商主義の誤謬を、形を変えて再生産している点にある。

重商主義の誤謬の中核の一つは、国家の富や経済的健全性を対外関係、すなわち貿易収支のみによって評価し、国内経済、とりわけ内需の役割を軽視する点にあった。重商主義は輸出拡大と金銀流入を重視するあまり、国内での消費や生活水準の向上を副次的なものとして扱った。その結果、国庫は潤っても国民経済は停滞するという矛盾を内包していた。トランプ政権の関税政策にも、同様の構図を見出すことができる。

トランプ政権は、長年にわたるアメリカの貿易赤字を不公正な貿易の結果と位置づけ、関税を通じて輸入を抑制することで国内産業と雇用を守ろうとした。この政策は一見すると国内経済重視のようにも映るが、実際には内需拡大そのものを主軸に据えた政策ではない。関税は国内消費を刺激する手段ではなく、むしろ輸入品価格の上昇を通じて消費者の購買力を圧迫する側面を持つ。結果として、家計の実質所得が低下すれば、内需は抑制され、経済全体の活力は損なわれかねない。

この点で重要なのは、貿易赤字の縮小が必ずしも国内経済の健全化を意味しないということである。内需主導で成長する経済においては、消費と投資の水準こそが国民生活の豊かさを左右する。にもかかわらず、トランプ政権の関税政策は、対外収支の改善を成果指標として強調する一方で、関税による価格上昇が国内消費に及ぼす影響を軽視する傾向があった。この姿勢は、国家の経済力を外向きの指標で測ろうとする重商主義的思考の延長線上にある。

また、内需軽視という誤謬は、分配の問題とも深く関係する。関税は販売価格を引き上げるため、とりわけ輸入品への依存度が高い低・中所得層に相対的に大きな負担を課す。その結果、国内市場の厚みを支える大多数の消費者の購買力が削がれ、内需基盤が弱体化する。このような状況は、短期的に一部産業を保護したとしても、長期的には国内経済の持続的成長を損なう蓋然性が高い。

もっとも、トランプ関税を単純に18世紀型重商主義の再来とみなすのは正確ではない。現代の関税政策は、経済安全保障や地政学的競争と密接に結びついており、単なる金銀蓄積思想とは異なる文脈を持つ。しかしそれでもなお、経済の基盤を内需ではなく対外関係の力学に求める姿勢が残っている限り、重商主義の誤謬は形を変えて現れ続ける。

総じて言えば、トランプ政権の関税政策は、内需を経済成長の中心に据えるという現代経済の基本原理よりも、貿易収支や対外競争を重視する発想に傾斜していた点で、重商主義の誤謬と相当程度の連続性を有している。真に持続的な経済力の基盤は、関税による外向きの調整ではなく、国民の購買力と生活水準を高める内需の拡充にこそ求められるべきである。この点を見誤る限り、トランプ関税は重商主義批判の射程から逃れることはできない。

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