韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めたことは、世界の勢力図に変化がもたらされつつあることを示唆している。

大陸囲い込み構想の系譜
この記事は日本経済新聞社のオピニオンページ日経COMEMOへの投稿からの転載です。

ユーラシア大陸とアフリカ大陸を一つの「世界島」と見た英国の地理学者ハルフォード・マッキンダーは、第一次大戦終結後の1919年、ユーラシアの内陸勢力が「世界島」を独占すれば、世界の海全体も支配されかねないとして警鐘を鳴らした。

米国でも、マッキンダーの理論を継承したエール大学のニコラス・スパイクマンが1942年、新大陸の防衛という観点からもユーラシア沿岸部との協力が必要であり、旧大陸勢力との闘争は旧大陸において決着をつけなければならないと主張した。当時太平洋戦争で交戦中であったにもかかわらず、彼は戦後すぐに日本と同盟を結ぶ必要性にも言及している。

歴史を振り返って見れば、かつては大英帝国がアフリカから中東、インド、マレー半島そして香港に植民地を置き、アフガニスタンをめぐってロシアとグレート・ゲームを繰り広げた。冷戦期、米国は「封じ込め」と称して、欧州やアジアでソ連と対峙した。そして現在、カタールやインド洋、極東やグアムにはアメリカ軍基地がある。

朝鮮半島は陥落寸前?

要するに近代の世界史は、ユーラシア大陸の周辺をめぐる大陸側と海洋側の争奪の歴史といっていい。現在流行しているインド太平洋戦略なるものも、畢竟従前の大陸包囲策の焼き直しに過ぎない。朝鮮半島は、言うまでもなく極東における争奪戦の最前線である。分断された朝鮮のうち、南側はこれまで海洋勢力の一員として日米と行動を共にしてきた。しかし、文在寅が大統領に就任してから予想されたことではあるが、今回のGSOMIAの破棄によって、南側が大陸勢力の手に落ちる蓋然性はいよいよ高まりつつあることが明らかとなった。

北朝鮮からの避難民を親に持つ文在寅は、朝鮮の分断を是正したいと考えており、また自国の立場を理解できないだろうから、日米との連携に興味はないだろう。日米は戦略の見直しを余儀なくされている。

米は撤退の準備、対馬は要塞化か

以下の『日本経済新聞』記事によれば、在韓米軍は朝鮮半島での有事に備えて、秘密裏に日本へ退避させる準備を進めているらしい。今すぐ韓国から完全に撤退することはなさそうだが、北緯38度上にある二大勢力の境界が固定的なものでないことは確かだ。

もはや今の韓国に海洋勢力の橋頭堡としての役割は期待できないだろう。その損失は決して小さくはないが、日本は脆弱な韓国との連携を前提にした安保政策を諦めざるを得ない。来るべき大陸からの脅威に備え、対馬の軍事拠点化を迫られよう。その負担は今までの比ではないだろう。向かい合っているのは朝鮮ではなく、その背後にある、世界を左右する大陸勢力だからである。

もう一度、スパイクマンの言葉を繰り返す。大陸勢力との闘争は大陸において決着をつけるしかない。今の日本にその覚悟があるだろうか。