日本にはなお「革命政党」がある
一橋大学教授の中北浩爾による政権交代の実現性に関する検討が、11月11日付『日本経済新聞』のコラムに掲載されていたが、日本での自民対非自民と諸外国の与野党との構図の違いが混同されているように見受けられる。
- 権力分散、長期政権に寄与 衆院選後の課題(『日本経済新聞』)
そもそも日本の政治モデルは、政権交代が一般的な他国とは事情が異なり、同列に語ることはできない。
自民党は二大政党の結合体
自民党は、今の岸田派(宏池会)などが属する旧自由党系と、本日安倍派となった清和政策研究会などが属する旧日本民主党系との勢力に二分される。前者は吉田茂に遡り、池田勇人の「所得倍増計画」に代表されるように、労働者向けの中道左派的色彩が濃い。後者は、岸信介に始まり、また中曽根康弘に見られるような新自由主義、タカ派的な色合いが強い。
この記事は日本経済新聞社のオピニオンページ『日経COMEMO』への投稿からの転載です。 |
英国で譬えるなら、労働党と保守党とが結合したようなものといえよう。つまり、英米では政党として截然と分かれている勢力が、日本では一つの党にまとまってしまっているのである。周知のとおり、これはかつて日本社会党が1955年に再統一され、革命の危機が公然と語られた情勢の中で、先述の保守政党が同年に合同して自民党が発足した経緯による。
これでは革命か非革命かしか選択肢がなく、大半の国民にとってはほとんど選びようがなかったから、自民党一強体制が長らく続いたというわけである。国政選挙がないという意味で中北は自民党内の勢力変化を「疑似政権交代」と形容したのであろうが、その構図に着目して言えば、実は自民党内の「疑似政権交代」は英米での政権交代そのものであり、日本でいう政権交代は革命政党のない英米ではあり得ないことなのである。
日共は「トロイアの木馬」
革命政党が温存されている状況下での政権交代は、政府の顚覆に道を開くという危険性を孕んでいる。そのため、上述の日本と諸外国との政権交代の内実の違いを認識しておくことは、極めて重要である。
先の衆院選で立憲民主党が敗北したのは、有権者がこの危険性をおぼろげながらも察知していたからに外ならない。立憲民主党は選挙前、政権獲得後に日本共産党と閣外協力する、日共は暴力革命企図との政府見解を変更すると述べるなど、露骨なまでの容共姿勢を見せた。野党第一党が日共と選挙協力をするなど、かつて例のなかったことである。
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日本資本主義論争の講座派以来「二段階革命論」を堅持する日共は、現在は革命の第一段階として大衆政党を装いながら、最終的には既存の体制を顚覆することを目標としている。閣外であろうとなかろうと、そんな集団を政権に潜ませれば、トロイアの木馬のごとく、必ずや災いを招くだろう。そもそも現在に至るまで党名すら変えておらず、「敵の出方」論を謳った党の文献をひた隠しにする点からしても、日共が従来の方針を改めるとは考えにくい。
したがって、政権交代実現への方策として、日共が路線転換を行うことが有効だとする中北の見解には、疑義を呈せざるを得ない。
「第三極」の動向に注目
むしろ今後の政権交代可否の鍵を握るのは、今回議席を伸ばした日本維新の会や国民民主党の動向であろう。
特に国民民主党は、立憲民主党から離れつつある連合(日本労働組合総連合会)の支持を、今後広汎に取り付けられるかが問われよう。もっとも、連合も一枚岩ではなく、かつての総評(日本労働組合総評議会)と同盟(全日本労働総同盟)のように分裂することもあり得るので、予断を許さない。
ともあれ、野党共闘から離脱した国民民主党の姿は、社会党から分離したかつての民社党を彷彿とさせる。政策の類似性から自民党に接近するのか、それとも民社党のように非自民を貫くのか。今後の行方に注目したい。
この記事は『日経COMEMO』へ2021年11月11日に投稿されたものです。