岸田政権がこのたび導入する育児支援拡充パッケージは、国内ではすこぶる評判が悪い。

この政策は、1兆円規模の少子化対策の財源を新たに確保するため、2026年から健康保険料を値上げするというものである。この施策には重大な問題がある。まず、これは保険料の目的外使用であること。さらに、保険料は所得に応じて決まるが、負担額には上限が定められているため、中間所得層の負担が相対的に増えることである。つまり、支援を要する子持ち世帯が最も割を食う仕組みなのである。

首相の岸田文雄は「全世代、全経済主体で支える仕組みだ」と趣旨を強調するが、見当違いも甚だしい。再分配を目的とするなら、なぜ新たな税として設けないのか。首相の辯明には、増税による国民からの批判をかわしたいという思惑が垣間見える。

思えば、こうした受益と負担とが噛み合わない不公正な慣行は、国民の同意を得ることなく、政治家たちによって都合よく利用されてきた。ここ30年間、日本の社会保険の負担率の伸びは、税負担率のそれに比して2倍以上である11. 1993年から2023年までの租税負担率は2.7パーセンテージ・ポイントの増加に対し、同期間の社会保障負担率は7.1ポイントの増加。国民負担率(対国民所得比)の推移、財務省(2024年10月17日閲覧)参照。

政治家が増税批判に萎縮して国民との対話を避けてきたことが、日本の少子化の根本原因だ。これは怠慢以外の何物でもない。