安倍派排除が裏目に
就任早々議席拡大を期した衆議院の解散総選挙は、石破茂率いる自民党執行部の完全な戦略ミスに終わった。
自民党は二つの政党の結合体だ。一つは岸田派を筆頭とする保守本流、いま一つは安倍派を中心とする保守傍流である。英国で譬えれば、前者が労働党、後者が保守党にあたる。
先の総裁選で、石破は本流議員に担ぎ出されて選出された。安倍晋三と長年反目していた石破は、裏金問題を口実に、関与していた安倍派など傍流の議員を非公認にした。石破は初めから安倍派議員を公認するつもりはなく、処分の口実づくりに腐心していたと言われている11. 「不記載公認、揺れた石破執行部 線引き決めた週末の内幕」、『日本経済新聞』、2024年10月7日。。この顚末は、石破による安倍派粛清との見方が支配的だ。
今回の選挙で、石破は政敵を一掃したはずだった。だが、投票箱を開けてみてわかったのは、「アベノミクス」で日本の経済を活性化させた安倍派が、実は物価高と低賃金にあえぐ無党派層の重要なつなぎ役だったということである。その安倍派を排除したことで、自民党はキャスティング・ボートを失い、黄金時代を終わらせてしまったのである。
石破は、今回の敗因は安倍派のスキャンダルであり、自分は被害者だと思っているようだ。だが一番の政敵が実は党の一番の功労者だったというのが、彼の認めたくない現実なのである。
1. 「不記載公認、揺れた石破執行部 線引き決めた週末の内幕」、『日本経済新聞』、2024年10月7日。