2022年5月10日

男女比率だけを変えても何にもならない

禹行舜趨(うこうしゅんすう)罷り通るジェンダー施策


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この記事 男女比率だけを変えても何にもならない

大学が女子学生の比率を上げようと躍起になっている。2027年度までに女性教員及び学部女子学生の比率をそれぞれ30パーセントに引き上げる目標を掲げている芝浦工業大学は、入学試験の上位者のうち、女子のみを対象に入学料を実質免除する施策を2022年度から始めた11. 「偏見が狭める女性の進路 国の未来、多様性がひらく」、『日本経済新聞』、2022年5月6日。

こういった所謂いわゆる弱者集団を積極的に優遇する措置はアファーマティブ・アクション(affirmative action)と呼ばれ、しばしば逆差別との批判を受けてきた。同大学学長の山田純によると、この取り組みは金額的なインセンティブよりも、大学側が「女子学生を積極的に求めているというメッセージの部分」での効果を期待したものだという22. 中村かさね「『女子学生だけに奨学金』は逆差別か? ジェンダーギャップ解消に取り組む芝浦工大の本気(学長インタビュー)」、『ハフポスト日本版』、2021年10月11日。

そう、要するにこれは体裁の問題なのだ。企業でも事情は異ならない。端的に言うと、構成員の女性比率が少ないと外部からのイメージが悪いのである。さらに、近年投資の分野でESG(環境・社会・ガバナンス)要素が重視されるようになってきていることもあり、ややもすれば将来資金調達に影響も出かねないため、大学や企業としては構成員の男女比率には一層敏感にならざるを得ない。

まったく児戯に等しい下策と言わなければならぬ。女性をお客様扱いする思考にいつまで経っても留まっているから、そうやって優遇する措置をとることしかできないのである。特別にもてなすということは、外野の人間として扱うこと、つまり共同体の成員の一人としてしていない、ということに外ならない。

言うまでもないことだが、本当に女性の社会進出を促したいのであれば、待遇を男性と同等にしなければならない。女性だからといって、例えば深夜勤務を控えさせるというのは、意欲のある女性にとっては大きなお世話というものである。それは当人の成長にならないし、自分は憐れみを受けて恵みを施される存在なのだという劣等感を植えつけてしまう。そして何より、本人が正当な評価を受ける機会を奪うことにもなる。

当然、女性の側にも相応の覚悟が求められる。所謂「きつい、汚い、危険」といわれる仕事であろうが、男性と等しく負担を引き受けなければならない。クオーター制のごときもので手加減を受けることは一切罷りならぬ。だが、日本における淑女崇拝フェミニズムの代表的なイデオローグである上野千鶴子はこれを拒絶する。

でも男だから上げ底してもらっているという既得権益があるから、それを失いたくないひとたちもいるでしょうね。クオータ制(Quota System・格差是正のために少数派に割り当てを行うアクション)に反対するひとたちが、逆差別だっていいますね。「あんたたち、長い間、上げ底履いてきたのだから、たまにそれを脱いだからって何が悪いの」って、わたしは思います。そのくらい、女のひとは開き直っていいと思っている。男性には、上げ底を履いてきた代わりに重荷も背負ってきたという言い分があるかもしれません。

だけど、女性がこれだけ「女らしさ」から解放されたいと女性運動をやってきたのに、男たちはめったに男性運動をやってくれない。男性運動がないのをみると、男性は「男らしさ」から解放されたくない、つまりよっぽど捨てたくないメリットがあるのかもね。重荷を背負ってでも、ストレスから胃潰瘍や癌になってでも、平均寿命を短くしてでも、捨てたくない特権がこのひとたちにはあるのかしら、って疑いを持ってしまいます。33. 上野千鶴子『最後の講義完全版これからの時代を生きるあなたへ──安心して弱者になれる社会をつくりたい』、主婦の友社、2022年、第5章。

(括弧内原著)

こういうものは、義務を引き受ける覚悟のない者だけが発するざれごとでしかない。決して軽くはない負担を男たちが受けているのは、そうしなければ社会の一員として認められないからであり、「メリット」や「特権」のためでも何でもない。女とて社会に参画したければ同じく負担を課せられるのだという、ただそれだけの単純な話なのだが、上野にはそうは思えないらしい。重い負担は嫌だが、地位は欲しいという。そんな虫のいい話はない、地位に見合うだけの責任を果たせと言われると、彼女とその崇拝者たちは決まって、「上げ底してもらっている」くせに既得権益の男のルールを押しつけるなと主張する。実にマルクス主義者の上野らしい辯舌である。

どの共同体にも秩序がある。共同体に加わりたければ、当然その秩序を尊重しなければならない。だが、その秩序を既得権益の産物と決めつけ、根柢から破壊して自らが上に立とうと目論んでいるのが、マルクスのしょうを浴び、憎悪と嫉妬に狂う淑女崇拝者たちの救いようのない病態なのである。

対話を拒み、直接行動に訴えることしか知らぬ者たちに、共同体に加わる資格はない。


1. 「偏見が狭める女性の進路 国の未来、多様性がひらく」、『日本経済新聞』、2022年5月6日。
2. 中村かさね「『女子学生だけに奨学金』は逆差別か? ジェンダーギャップ解消に取り組む芝浦工大の本気(学長インタビュー)」、『ハフポスト日本版』、2021年10月11日。
3. 上野千鶴子『最後の講義完全版これからの時代を生きるあなたへ──安心して弱者になれる社会をつくりたい』、主婦の友社、2022年、第5章。



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