法令の立法意図を等閑視するな
参政党幹事長の安藤裕は、消費税法の条文に消費者が納税義務者であるとの記述がないことを理由に、消費税を「事業者に課せられた直接税」と断定している。
法律を読む限り、税の負担者は事業者であり納税義務者も事業者である。消費税法の条文には、消費者が納税義務者であるとは書いていない。そもそも消費税法には、消費者という言葉自体が出てこないのだ。
〔……〕
消費税は法律を読むと直接税であるとしか読み取れない。消費税は事業者の行う課税資産の譲渡等(要するに売上)に課税され、事業者が納税義務を負う。負担者は消費者であるとは一言も書いていないのだ。11. 安藤裕「インボイス制度の問題点と消費税の欺瞞──ウソにまみれた消費税の闇」、『長周新聞』、2023年6月29日。
(括弧内原文)
しかし、これは税体系の「法的スキーム」と「経済的実態」を混同した、一面的かつ短絡的な解釈と言わざるを得ない。
執行可能性のための「法的擬制」という合理性
確かに、消費税法には消費者という語はない。消費税分を価格に転嫁するかどうかも事業者の自由である。だが、消費税法が事業者に納税義務を課しているのは、現代社会における徴税の現実的妥当性に基づくものである。 本来、消費の都度、消費者が直接税務署に申告して納税を行うのは、事務コストの面から不可能である。そこで、取引の結節点である事業者を「納税義務者」と定め、消費税相当額を価格に転嫁して預かる仕組み(転嫁の擬制)を構築したのである。この事務的簡素化のための設計のみを捉えて「事業者に課せられた直接税」だと主張するのは、制度の目的を度外視した形式論に過ぎない。
条文の欠如と「法の趣旨」の解釈
安藤は条文に消費者の義務が書かれていないことを強調するが、法令にはその背後に必ず立法意図が存在する。例えば、便所に「備え付けの紙以外を流さないでください」という貼り紙があった際、そこに「用便をしてよい」という明文がなくても、排泄を禁止する意図でないことは自明である。同様に、消費税法に「消費者が負担する」という直接の文言がなくとも、仕入税額控除という「消費者に至るまでの重複課税を排除する仕組み」自体があるから、最終消費者にのみ負担を求める間接税としての構造であることは明白である。
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「形式的義務」と「実質的負担」との峻別
租税理論において、「誰が法的な納税義務を負うか」と「誰が経済的なコストを実質的に負担するか」は、明確に区別されるべき別個の概念である。 法的な納税義務者と実質的な負担者が異なることこそが間接税の定義そのものであり、これについては過去の判例(1990年東京地裁判決)においても、「消費税の実質的負担者が消費者である」ことが明確に認定されている。事業者が赤字であっても納税義務を負うのは、消費者が支払った税相当分を「預かっている」という構成をとっているからであり、これを事業者の所得に対する課税(直接税)と混同することは、税制の根幹を揺るがす曲解と言うほかない。
結論
消費税を直接税と捉える視点は、特定の政治的文脈においては有効かもしれないが、税法学的な整合性や裁判所の判断、さらには国際的な「付加価値税(VAT)」の標準的な解釈に照らせば、極めて主観的な主張に留まっている。消費税はあくまで消費という行為を捉え、事業者を介して広く薄く負担を求める間接税であり、その法的形式(事業者の義務)のみを抽出して本質を語るべきではない。
1. 安藤裕「インボイス制度の問題点と消費税の欺瞞──ウソにまみれた消費税の闇」、『長周新聞』、2023年6月29日。
